小品1

「墓まで持っていく、というのは優しいことなんだろうね」そう言ったようにきこえた 私がもう少し若かったら、考えるよりはやく好奇心が口をついたかもしれないし、自分のことか何かわからない何かを見ようと必死になったかもしれないし、なにその思わせぶりな物言い、から始まり、あっという間に火の手が回っていたかもしれない あいにく今回はどれもあてはまらず、そうなのかねーと言ったたぶん眠かったから 「墓まで持ってくってことは、忘れないってことだもんね」 ぶつけない、吐露しない、けど忘れないずっと、ただ腹にあるそんなことを言っていた 言わないんじゃなくて、人に言えないことを例える言葉じゃなかったっけと思ったけど、なんだか今日はそっちが正しい気がした 忘れないっていうのはきっと優しい忘れちゃうのも優しい黙って誰かにしてあげることはみんな優しいそんな気がした おしまい

続きを読む

もしもし

「もしもし」電話のはじまり最近言ったのはいつだったか そのかわり、「おつかれさまです」とか言う疲れていそうになくても言う時代か立場か年齢か 昔は、朝でも夜でも「おはようございます」と言った方が良さそうな人いましたね「おはようございますこんばんは」ピチカートVね 昨日あたりから、「もしもし」で始まる話を考えている浮かびそうで、浮かばない形にしたい、というか、形は、あるぼやーっと輪郭はあるんだけどなあ もしもしあなたはどこですか

続きを読む

18時(仮)1

三角巾をしている人がいた。 あ、三角巾だ、と思い、三角巾なんて単語久しぶりに思い出した、と思い、そういえば三角巾に続く動詞は“吊るす”なのか?“下げる”なのか?と思い、変換したら「三角筋」と出た。 地下鉄のホームで、暑い日だった。そのまま画面を見ていた。他の文字列に目移りし、さっき思っていたことなど忘れていた。女子高生の「きゃはー」という笑い声が響く。顔を上げるとその人はもう見えなかった。 規則正しく並ぶコンクリートの柱に阻まれて、反対側の人たちは遠くへ行ったのかその裏にいるのかよくわからない。黒くて長いスカートを履いて、黒い帽子。なんとなく捜したい気持ちと、そこまで興味のない気持ち。 なまぬるい風とブォーという音を吹かせて電車が滑り込む。

続きを読む